無責任にも難問だけを出して置いたまま立ち去る哲郎を、姉妹は茫然と見送るのだった。
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「どうしよう…」
「やっぱり、お金稼ぐしかないんじゃない?お金さえあれば、かかはそんなところに行かなくて済むんだもん」
「でも・・・私たちだけで?」
「うん…でも、やるしかないじゃない」
そうして、家に帰りついた姉妹。
「常子―。鞠子ー。お夕飯の支度、手伝って―」
「「はい」」
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翌日から、常子と鞠子はあちこちに仕事がないか探して回った。が、
「女なんか足手まといだぜ」
結局、女が仕事をすることがいかに難しいことか痛感するだけであった。
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家計簿をつける君子。「ふーん、ふん、ふん♪」楽し気な鼻歌を歌っている。
その様子を寝室から伺っていたのは鞠子だ。
美子をポンポンと布団で寝付かせている常子に声を掛ける。
「ああ、不安になってきた…。かかが鼻歌を歌う時って 不安な気持ちで悩んでいる時が多いと思うの」
美子は寝付いたのだろう。常子が鏡台の方へ移動する。
「毬ちゃんも、気が付いてたかー」
「ねえ、引き受けようとしてるのかな、断ろうとしているのかな」
「そんなの分からないわよ」そう言いつつ、爪を切り出す常子。
「あ 駄目よ。夜に爪をきると早死にするっていうじゃない」
「ふふ、意外とそういうの、気にするんだ。
あのね。夜と爪で 世を詰める、つまり早死にっていう意味になるでしょ。つまり、しゃれみたいなもんらしいわよ」
「へえ、そうなんだ」
「それだけじゃないのよ」
「かか!」
襖を開けて入ってきたのは君子だ。
「おふろに行こうと思ったら耳に入っちゃって。
昔ね、お百姓さんたちがまだ貧しかったころ、夜は灯りもまともに付けれなくてまっくらだったらしいの。
そんな暗い中で爪を切っていたら、傷をつくってしまって。そこからばい菌が入って
手足をなくしたり、なくなることもあったそうよ。
迷信めいたものにして昔の人の知恵を伝えているのね。
おじゃましました。おやすみなさい」
そうして立ち去ろうとする母を呼び止める常子。
「かか!…えっと、
最近、なにか悩んでいる事ないですか?なんとなくそういう風に見えたから…」
「あら、態度に出ちゃっていたのね…。ごめんなさい。
でも大丈夫。たしかに悩んでたことあったんだけど、答えは出したから。
あなた達は何も心配しなくていいのよ」
そう言って立ち去る君子。
残された姉妹は…
「「あああああ~!! どっち、どっち?」」
常子「でも、どっちにしろお金あれば行かなくて済むわけだから。・・・あ。はと!
ほら、おじさんが大阪じゃ食用にしていて高く売れるって言ってたじゃない。
捕まえたらお金になるわ」
鞠子「…どうかなー、おじさんの言ってたことだし」
「じゃあ他に何ができるの!?かかがお妾さんになってもいいの?」
「う、うん。そうよね。やるわ」
「私もやるー♪ わたしも鳩、捕まえる!」
「美子、あなた起きてたの!?」
そうして鳩大作戦が始まった。
一方、仏壇の前では君子が遺影を見つめてひとり、ため息をついていた。
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肉屋のおじさん「鳩?ああ1羽○銭で買い取るにー」
「「「おー♪」」」
「おじさん、ホントのこと言ってたんだ。おじさん、ありがとう。
頑張って鳩をたくさん捕まえてくるね」
そう言って走り去る姉妹。
「え?捕まえるって…、おーい!」おじさんが声を掛けた時にはすでにはるか彼方なのだった。
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「かかれー!」
「えいッ」
網で掬おうと奮闘するも、当然全く捕まらない。
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君子は手紙をしたためていた。その手紙には「生活」「 援助」などの言葉が並ぶ。
いったい誰に送るのか。
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作戦を練り直した姉妹たち。
カゴに罠を付けてまつ戦法に変更だ。ただ待てども待てども・・・来ない。
「ねー、まだー?」
「焦らないの。鳩が我々を意識しなくなったその時が勝負!」
「「・・・はーい」」
その時一羽の鳩が近づく。と、と、と…
エイッ!
「「やったー!!」」
常子「まだまだ行くわよ」ドヤ!
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鞠子「ひーふーみーよー・・・10羽ってことは「「「5円!?」」」
おおーーーー!盛り上がる三姉妹。
一方、郵便受けを見る君子。手紙が来ている。それを読み一人考えこむ。
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「ええっ!買い取れないってどういうことですか!?」
「だからー!注意しようとしたらその前にいなくなっちまったもんだから。
これはみんな土鳩!売れるのはキジバトだよ!こんなの一銭の価値もねえよ」
「ええ~…」肩を落とす三姉妹。
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「じゃあ、お世話になります」大家のうちで電話を掛ける君子。
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「「「ただ今 帰りましたー」」」
「かかー?」
「かか、どこにもいないよ。早番だからもう帰ってるはずなのに」
「とと姉!」「なあに?毬ちゃん」
「かかのお着物が!余所行きのいいお着物が…」
着物はなくなっており、それを包んでいた紙だけが残っている。ということは余所行きの服を着て出かけたのだ。どこに?嫌な不安がよぎる。
美子「かかの髪飾りもない!」」
不安が確信に変わる。
「かか!」
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かかー かかー
急いで探し回る3姉妹。いた…違う、人違いだ。いない、どこにも。
町中探し回って、海岸まで探して。それでもいない。
「いた?」「ううん」「こっちもいない」
そうして荒い息をつく顔をふと上げると、長い橋の上、一人歩くかかを見つけた。
「かかー!!」
叫んで三人が君子に抱き着く。
「待ってください!私なんでもしますから」
「行かないでー」
「そうです。ちゃんとした鳩をつかまえれば何とかなるかも」
君子「鳩?? ちょっと待って、どういうこと?」
「だって かか。私たちのためにお妾さんになろうとしてたんでしょ。そんなの嫌です。ひとりで抱え込むなんて、止めて下さい!!」
唖然とする君子。その後、それは笑顔に変わる。「あはは、ちょっと座りましょ」
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「まず言っておきます。私はお妾さんになるつもりはありません。
第一お話を頂いた後、すぐにお断りしたのよ」
それを聞いて美子に視線を向ける常子と鞠子。
「そういえば、最後まで聞かなかったかも…」少しばつが悪そうな美子。
ほっとするも、新たな疑問が出てくる。
「では、かかはどこに行こうとしていたのですか?」
「…女学校です。転校の手続きについてちゃんと聞こうと思って…」
「転校?」
気まずそうな君子。
「実はね、母のところにお世話になるかどうか、悩んでいたの。
私の母。あなた達のおばあさま」
鞠子「え、でもかかのおばあさまはもう亡くなってるはずじゃ…」
思ってもいない人の名を聞き、呆然とする姉妹なのだった。
つづく
感想!
はい、安心の展開。私たちの君子さんはやっぱりお妾さんなんか行きませんでしたよ~(*´▽`*)
分かってたけどね!
思いの外、思わせぶりな描写を差し込んでてびっくりしました。
でもこうして見るととても素敵で母性溢れる「かか」だった君子さんなのに、色気のある女の顔に見えるもんだから、女優さんってすごい!
夜に爪を切る話はトリビアで感心しました。なるほどねー。
ただ夜に爪を切る迷信ってうちの辺りだと『親の死に目に会えない』だった気がするけど…どうだったかな。
ともかく、来週は江戸っ子チャキチャキ美しい おばあさまに会えるので こりゃまた楽しみです♪