荷物を目いっぱい抱えた常子達。
小橋の表札を手に取り、感慨深げにしていると「常子ちゃーん」
「工場のみなさん!」
「お見送りだけになってしまって申し訳ない。どうか向こうでも元気に過ごしてください。…あ、社長!」
木の影に隠れる社長。
「もう!社長、ずっと小橋さんたちが引っ越しするのは自分のせいだって気にしてて。今日も来ないつもりだったんです」
「来る前に一杯ひっかようとしてたんで、慌てて止めて「ああ、言うな、言うなっ」
申し訳なさそうに出てくる社長。
「そんな…、お気になさらないでください。今まで本当に良くして頂いて、私たちにはただただ感謝しているんです。ありがとうございました」
頭を下げる家族。
「身体だけは気を付けて。頑張ってのう」
そうしている内にまた別の声が聞こえる。「常子ー」「鞠子ー」学友たちだ。
「寂しくなるに―」
「うん…。あ、またオモシロイあだ名を思いついたら、手紙で送るね」
「うん」
犬をつれて大家さんも見送りにやってきた。
「浜松に来ることがあったら、顔見せてや」「はい」
「皆さま、名残惜しいですがこれで失礼をいたします。
本当にありがとうございました」深々と頭を下げる君子。姉妹もそれに倣う。
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砂浜で染物の仕事をしている玉置長男。でも手は止まり、ぼおっと何かを考えているようだ。
「あのー」
「?」声をかけられた方を見ると、なんと常子が!
家族と一緒で、みんな手にはたくさんの荷物を持っている。きっと汽車へ向かう道行に寄ったのだろう。
次男「あ、おめえ。何しにきたんだよー!!」さっそく絡んでくる次男。
それを叩いて、常子に詰め寄る。
「・・・ちょうどよかった」
ん?怪訝そうな顔をする常子。次男も三男も??といぶかし気に長男を見ている。
「餞別に…やる」そう言ってずいっと布地を常子に差し出す。
広げてみると淡い色合いで花などが描かれている手拭いだった。
「俺が、染めたんだ」
「へー、きれい」
「う、運動会で手拭いもらったからっ、その礼だ…ッ。そんで何の用だったんだよ」
「あ」
「何か言い残したことでもあるんか!?」(ワクワク
「最後に上りたくて」
「・・・は?」
「親方に頼んでもらおうと思ったんだけど、いいや。自分で話してみる。あ、手拭いありがとね」
そう言って走り去る常子。
鞠子「まさおくん」振り返る次男。
「仕事頑張って。立派な職人になってね」
美子「みきおくん」振り返る三男。
「悪さばっかりして、廊下で立たされないようにね。」
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はしごを躊躇することなく登っていく常子。
親方「相変わらず大した度胸だ。女にしておくのは惜しいぜ」
その姿を見ていた鞠子と美子。「私も登る」「私も」と後に続く。
眼前には浜松の景色が一面に広がっている。
「もう、お別れだね」
真ん中に立つ美子は姉たちの手をぎゅっと握った。
櫓の上に上ると、どうしてもあの時のことが思い浮かぶ。
昔むちゃをして登って降りられなくなったこと。
トトが自転車で駆けつけてくれて。怒られて。でも
「自分で考え、行動したことは素晴らしいと思います」
褒めてくれた。
そして…
「常子にはととの代わりになって欲しいんだ…。かかや、鞠子、美子を守ってほしい」
大切な思い出を胸に、常子は故郷に別れを告げるのだった。
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汽車の中、向かい合わせておにぎりを頬張る家族。
そこに見覚えのある影が…。
「ちょっと、ここ。座らせてもらっていいかい?」
「! おじさん!」
「びっくりしたぜー、家に行ったらもぬけの殻なんだもんよ。大家に聞いて、手紙もらっちゃったよ」
君子「だって、しょっちゅう色んなことに出てらして、どこに出したらいいか、分からなかったんですもの」
「ちょうどよかったぜ、俺も東京行くからさ、一緒に行こうぜ」
常子「あら、おじさんは新潟に行くんじゃなかったんですか」冷たい視線を向ける。
美子「また失敗したんだー(笑」
軽口をいう美子から握り飯を取ってやる。「あー!返してよー」
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東京!祖母の家の周りは河があり、木がたくさん浮いている。
たくさんの男たちがせわしなく働いていた。
常子「木のいいにおいがするー♪」
「よそもんか?」じろじろ。上機嫌だった常子だが、遠巻きながらも不躾な目を回り中から向けられて戸惑う。
「なんで、みんな睨んでくるの?」
「地場の男たちはみんなこうよ。行きましょ」
哲郎含め一行は青柳家へやってくる。
哲「ずいぶんご立派な家だなー…じゃあ、俺はそろそろ行くわ」
「えっ」常子達が驚く間もなく立ち去る哲郎。「じゃあな~」
常「さては居場所を知るためについて来たのね」」
毬「また困ったらせびりにくるつもりよ、きっと」
後ろの騒ぎをよそに、君子は実家の玄関の立ち尽くしたまま動けなかった。
顔には緊張の色がにじむ。
「お店に何か御用で?…おじょうさま?君子お嬢さまじゃないですか!いやあ、お久しぶりで」
「あ…隈井さん。ご無沙汰しております。こちらは番頭の隈井さん。
私が小さいころからずっとお世話してくれていたの。
隈井さん、常子、鞠子、美子です」
「はじめまして」
嬉しそうに君子を向かえる隈井。だが、わざわざ迎えに出たわけではないようだ。
「この度は、お世話になります」
「え?」
「何も・・・聞いていないんですか?
そうですね。母にとっては私たちのことなんて取るに足らないことですよね」
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玄関から上がろうとすると、大勢の店の者が出てきて、一堂に頭を下げた。
「おいでなさいませー」
長い廊下を渡る。たくさんの人がいて、とても大きいお屋敷だ。
家族は隈井に先導され、奥の部屋に通された。
「君子お嬢さまはそりゃあ美しくてねえ。近所のガキどもなんてチラッと見たらぽーっとなっちまって…っと、俺が話し込んでもいけねえ。女将さんを呼んできやす」
「あの!」立ち去る隈井を常子が呼び止める。
「おばあさまって・・・どんな方ですか?」
「女将さん、ですか・・・。こいつあ、難しい質問だ。
うーん、一言でいやあ、青柳家商店そのもの、ですかね」
「そのもの・・・」
ふたたび呼びに行こうと隈井は襖を開けると、そこには人影が。
「おっとっと。あ!女将さん!すみません。今呼びに行こうとしたところで」
背筋のすっと伸びた女性が部屋に入ってきた。
表情はなく、厳しい目を君子達に向ける。
「…ご無沙汰しております。この度はお世話になります。
こちらは常子、鞠子、美子です」
「「「はじめまして」」」
君子に続いて頭を下げる常子達。
こうして祖母と始めて対面をしたのだった。
つづく
感想!
昨日のとと絵でも見かけましたが、兄弟&哲郎ちゃんと回収されてよかったね。
とくに兄弟は笑えました。三男の目つきが最高です。
真央おばばのお顔は最後にやっと出てくるんですが、その姿勢だけで美しさが伝わってきますね。